ホームコラム第5回 言語治療Ⅱ
local_library第5回 言語治療Ⅱ
言語治療ってどんなことをするの?
言語治療のおもな内容をご紹介します。歯科医との連携のもと、患者様の症状に合わせて、言語聴覚士による構音訓練(発音の訓練)を行います。訓練は患者様と1対1の個別訓練で、約30分~1時間です。
- 機能性構音障害
- お子さんの年齢に合わせて、必要に応じて遊びを交えながら行います。訓練の内容は発音の際の舌の動かしかたの指導から始まり、学習が進むと単語や本読み、会話で正しく言う練習を行います。毎回の訓練の終わりに、家庭でのトレーニングのメニューを保護者のかたに説明します。
また、発音の癖が頑固で改善に時間がかかりそうな場合は、人工口蓋(写真1)を作製し、専用の機械(写真1)で舌と上あごの接触状況を観察しながら発音の練習をすることもあります。(人工口蓋の料金は患者様のご負担になります。)
写真1 人工 口蓋、エレクトロパラトグラフ
/ta/発音時の正常な舌接触パタン
- 器質性構音障害
- ① 口腔癌術後
訓練の内容は、初期の段階では発音と嚥下機能の両方の改善を目指し、舌や顎、唇や頬など口腔周辺の器官の運動機能訓練を行います。これは当科で開発した「摂食機能療法」という練習メニューにのっとって計画的に実施します。訓練が進むと単語や本読み、会話などの練習をし、相手に言葉が伝わりやすくするように工夫する練習をします。
また、発音や嚥下障害が重度な場合は歯科医が舌接触補助床(写真2)を作製します。これは上あごの部分を厚い形状にした口蓋床で、手術で移植した舌の動きが悪く、舌と上顎をうまく接触できない患者さんに適用されます。舌接触補助床の装着により、タ行やカ行など、言いにくい音が発音しやすくなったり、嚥下時に食べ物を口のなかでコントロールしやすくなるという利点があります。
写真2:舌接触補助床
② 唇顎口蓋裂、先天性鼻咽腔閉鎖不全症
A.唇顎口蓋裂
お子様の成長にあわせて唇や口蓋の手術が行われますので、その都度言葉の状態をチェックし、その時期に必要な構音訓練、鼻咽腔閉鎖機能訓練を行います。お子さんによっては視覚的なフィードバックができる訓練機器(エレクトロパラトグラフ、「機能性構音障害」参照)を用いる場合もあります。
また、鼻咽腔閉鎖不全(空気や声の鼻漏れ)が問題となる場合は歯科医がバルブ型スピーチエイド(写真3)を作製することがあります。これは尖端にプラスチック製のバルブがついた装置を上顎にはめる形態のもので、これによって発音時に口腔と鼻腔の間にできてしまう隙間を閉じ、鼻漏れを改善します。
写真3:バルブ型スピーチエイド
B.先天性鼻咽腔閉鎖不全症
初診時から言語聴覚士による鼻咽腔閉鎖機能訓練、構音訓練を開始し、機械を用いた検査の結果もふまえて治療方針を検討します。
症状によって治療方針は異なりますが、軟口蓋挙上装置(パラタルリフト、写真4)を作製して動きの悪い軟口蓋の筋肉の運動機能を高めたり、全身麻酔科の手術を行って軟口蓋の筋肉の状態を改善するという方法があります。
写真4:軟口蓋挙上装置
- 運動障害性構音障害
- 症状に合わせて、言語聴覚士が舌や口唇の機能訓練、鼻咽腔閉鎖機能訓練、構音訓練、会話時のイントネーションやスピードをコントロールする訓練などを行います。更に鼻咽腔閉鎖機能不全がみられる場合は軟口蓋挙上装置(パラタルリフト)を歯科医が作製し、発音時の空気の鼻漏れを改善します。
まわりはどのように対応したらいい?
1.無理に言わせない。
特にお子さんの場合、言えない音を無理に言わされるのはとても大きなストレスとなります。訓練が進んである程度うまく言えるようになるまでは、誤った発音をしても無理に訂正するのはやめましょう。
2.家庭学習が大切。
ことばの訓練は、病院の言語室だけで行われるものではありません。言語聴覚士が選んだ練習メニューをお家で毎日練習することが早期の改善につながります。お子さんの場合は、保護者のかたがお家での練習に協力してあげて下さい。
3.関係機関への説明を。
患者さんの言語障害を周囲が理解することにより、コミュニケーションが容易になり、心理的負担が減少します。幼稚園や学校の先生、職場の関係者に、言語障害の内容と、治療を受けているという状況を伝えておくことをお勧めします。
山下 夕香里
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