ホームコラム第4回 言語治療Ⅰ
local_library第4回 言語治療Ⅰ
発音のことでお困りではありませんか?
「うちの子、赤ちゃんことばがなかなか直らなくて。」
「小学生になったのだけど、友達に、ことばが変だとからかわれます。」
「脳卒中の後遺症で、ろれつが回らない。」
「口の中の手術をして発音が不自由になり、社会復帰できない。」・・・・
このような悩みをお持ちのかたを対象に、当科では言語治療を行っています。
どんな病気が対象?
「言語障害」とは、生理学的、心理的、社会的な様々な原因によって言語の適切な理解、表出が困難な状態をいいますが、当科では、主に以下のような「発音の障害」を対象に専門的な治療を行っています。
- 機能性構音障害
- 「小学校入学間近なのに、赤ちゃんことばが治らない。」「『カラス』が『タラス』に聞こえる。」「『キ』『シ』『リ』などの発音の時に、唾液のグジュグジュした音が聞こえる。」「タ行がカ行、サ行がヒャ行のように聞こえる。」・・・・・このような場合には「機能性構音障害」が疑われます。これは脳や神経、聴覚などに異常が無いにもかかわらず、発音の誤りが生じてしまう現象です。子どもの時に身につけた発音の誤り(くせ)が自然になおらない状態と考えられる場合もありますが、はっきりとした原因はわかっていません。
- 器質性構音障害
- お口の形態の異常によって生ずる発音障害で、当科では歯科医との連携のもと、主に以下のような患者さんの診断、治療を行っています。
① 口腔癌術後
舌や顎などを癌の手術で切除した患者さんは、口をうまく動かすことができないために発音が不明瞭になります。また食事の際に飲み込みも不自由になります。
② 唇顎口蓋裂、先天性鼻咽腔閉鎖不全症
唇顎口蓋裂の患者さんの中には、独特の発音の誤りを生じたり、発音時に空気が鼻から漏れるかたがいらっしゃいます。また、明らかな口蓋裂ではないのですが、軟口蓋(いわゆる「のどちんこ」の周辺)の筋肉の異常のために発音時に空気の鼻漏れが起こり、鼻にかかった声(開鼻声)になってしまう場合があり、「先天性鼻咽腔閉鎖不全症」と呼ばれています。(「診療内容」の「唇顎口蓋裂」「鼻咽腔閉鎖機能診断」をご参照下さい。)
③ 舌小帯短縮症
「舌小帯」という、舌の裏側についている「ひも」が著しく短くなった状態で、極端に短いと、赤ちゃんの場合は哺乳障害、幼児の場合は食事時に口の周りが汚れやすい、食べるのが遅い、またことばに関してはラ行や早口ことばが発音しづらい、などの問題が生じます。ただしことばに関しては、舌小帯が短くても発音時の口の動きを無意識に調節して、問題なく話している人もいます。
多くの場合、口腔外科で実施する「舌小帯伸展術」という手術と、舌運動の指導により改善します。また発音障害も同時にみられる場合は発音を治してから手術の必要性を検討することもあります。
④ 顎変形症(上顎前突、下顎前突など)
顎の骨の形態異常により「前歯が出すぎた状態」や、いわゆる「受け口」である場合、おもにサ行やタ行などの発音が特徴的な音になることがあります。
言語訓練の対象となることは少ないですが、口腔外科で実施する外科手術による形態の改善と舌運動の指導により発音も改善することが多いです。
⑤ その他の口の中の病気
その他にも以下のような口腔疾患で発音の障害が生ずることがありますが、ほとんどの場合口腔外科で実施する外科手術で改善しますので、言語訓練の対象となることは少ないです。
例)巨舌症(舌が著しく大きい)
口蓋隆起(上顎に大きな出っ張りができて発音しにくい)
- 運動障害性構音障害
- 脳卒中や頭部外傷、その他の原因による神経の損傷が原因で、発音に関連する筋肉のコントロールが障害されることがあり、「運動障害性構音障害」と呼ばれています。相手の言うことは正しく理解できるのですが、舌がうまく回らずに、いわゆる「ろれつが回らない」ような発音になったり、話すときに空気が鼻に漏れて、鼻にかかった声になります。また話すときのスピードや声の大きさ、抑揚がコントロールできなくなる場合もあります。
どんな検査をするの?
言語治療の専門職である「言語聴覚士」が最初の検査を担当します。
まずは単語や文、会話などでの発音の状態を調べ、必要な場合はストローや鏡などの簡単な器具を用いて空気の鼻漏れの検査(鼻咽腔閉鎖機能検査)も行います。全く痛みや苦痛を伴わない検査ですので、怖がりのお子さんでもご安心ください。これらの検査で障害が疑われた場合、必要に応じて声の録音やビデオの撮影、歯科医が実施する鼻咽腔ファイバースコープやpressure-flow検査(「診療内容」の「唇顎口蓋裂」「鼻咽腔閉鎖機能診断」をご参照下さい。)などの機械を用いたより専門的な検査をさせて頂きます。
次回コラムにつづく・・・
山下 夕香里
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