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昭和大学歯科病院 口腔機能リハビリテーション科
今回から嚥下障害の検査法についてコラムで紹介します。 第1回は頸部聴診法(その1)です。
写真1 昭和大学歯科病院の透視検査室
高齢社会(65歳以上の高齢者が全人口の14~21%を占める社会)を迎え、摂食嚥下障害の有病率は増加し、様々な医療現場で嚥下機能の評価を行う機会が増えてきました。
嚥下障害の評価法のうち嚥下造影検査法(Videofluorographic examinationー以下VF 検査法)は嚥下動作の全過程を画像として捉えることができるだけでなく、咽頭・喉頭部や食道、頸椎の解剖学的な異常も観察することができるため、最も信頼性の高い検査法とされています。しかし、VF検査は専用の設備内(透視検査室―写真1)でしか行えず、エックス線被曝を伴うため嚥下機能の回復、悪化に応じて検査を度々行うことや、摂食中の長時間にわたり評価することは難しいのが現状です。また、姿勢を保持できない患者様では検査中に照射野(エックス線を照射している範囲)から離れてしまったり、嚥下障害の改善のために適用する姿勢調節法(飲み込み易くするための姿勢)によっては、喉頭や咽頭部が体幹と重なり嚥下障害の診断が困難となることもあります。
そこでVF検査の欠点を補う補助診断法として、容易に行え、しかも精度の高い嚥下障害のスクリーニング法が求められてきました。本コラムでは嚥下障害を扱う医療現場で普及している頸部聴診法について紹介します。
写真2 頸部聴診法
頸部聴診法(Cervical Auscultation 写真2)は食塊(Bolus:飲み込める状態となった飲食物)を嚥下する際に咽頭部で生じる嚥下音ならびに嚥下前後の呼吸音を頸部より聴診し、嚥下音の性状や長さおよび呼吸音の性状や発生するタイミングを聴取して、主に咽頭相(食塊が咽頭部を通過している状態)における嚥下障害を判定する方法です。本法は非侵襲的に喉頭侵入(食塊が喉頭内に流入し、かつ声帯上に留まるもの)、誤嚥(食塊が声帯下に流入すること)や下咽頭部の貯留を判定するスクリーニング法としてベッドサイドでも極めて簡便に行えるため、近年、嚥下障害を扱う医療現場で広く用いられています。
図1 嚥下音の検出部位
判定精度を上げるためには聴診に先立ち、患者様の口腔、咽頭あるいは喉頭内の貯留物を排出させておくとよいでしょう。指示に従える患者様では排出にあたり、体幹と頸部を水平位よりも下方に前傾してもらい、その姿勢を保ったまま強い呼気動作であるhuffingや強い咳嗽を行ってもらいます(嚥下障害の患者様は下咽頭や喉頭内に唾液や分泌液を貯留させていることが多いため、この前傾姿勢での排出を聴診時に限らず、しばしば行ってもらうとよいでしょう。)それでも排出が不十分な場合は経鼻的に吸引管を挿入して下咽頭部、喉頭付近の貯留物を吸引します。貯留物の排出後、聴診器の接触子を頸部に接触させ、患者様に呼気を出してもらい、この時の呼気音を聴診します。次に準備した嚥下試料を飲んでもらい、産生される嚥下音を聴診します。嚥下が終了したら、直ちに呼気を出してもらい、呼気音を聴診し、嚥下前に貯留物を排出させた状態で聴診した呼気音と比較します。
指示に従えない患者様では貯留物を吸引した後、自発呼吸の呼吸音を聴診し、嚥下試料を口に運んで嚥下してもらい、嚥下音を聴診してから嚥下後の自発呼吸の呼吸音を聴診します。
なお試料嚥下後に重度の誤嚥が疑われた場合には、直ちに検査を中断し、速やかに吸引処置を行う必要があります。
次回は頸部聴診法(その2)で頸部聴診の判定法と判定精度をご紹介いたします。
高橋 浩二