ホームコラム第34回 口腔機能低下症について
local_library第34回 口腔機能低下症について
歯科界における最近のトピックはご高齢による口腔機能の低下に関して、“口腔機能低下症”が定義されたことです。今回のコラムでは“口腔機能低下症”について解説します。
“口腔機能低下症”とはオーラルフレイルがさらに進行して“疾患”としてみなされる状態で、加齢のみならず口腔機能の低下を引き起こす様々な疾患や障害などが影響を及ぼして口腔の機能が複合的に低下している病態を意味します。(診断についての詳細は付録をご覧ください。)さらに口腔機能低下症が進行すると咀嚼機能不全、摂食嚥下障害が常態化し、全身的な健康が損なわれるようになります(図1)。
高齢者においては、むし歯や歯周病、義歯不適合などの口腔の要因に加えて、加齢や全身疾患によっても口腔機能は低下しやすく、また、低栄養や廃用、薬剤の副作用等によっても修飾されて複雑な病態を示すことが少なくありません。
以上のことより、全ての高齢者にとって、ご自身の生活環境や全身状態を把握し、口腔機能を適切に管理することはとても大切なことと言えるでしょう。口腔機能低下の重症化を予防するため、かかりつけ歯科医師を持ち、中年期から継続的に口腔機能の診断と口腔管理の指導を受けることで口腔機能を維持、回復することが可能となります。
「食べ物が噛みづらい・飲み込みにくい」「お口の中が乾く」といったことでお困りの場合は是非、当科までご相談ください。
図1.口腔機能低下症の概念図
出典:日本歯科医学会 2018 口腔機能低下症に関する基本的な考え方
付録 口腔機能低下症の診断について
(1)診断基準
口腔機能低下症は7つの症状(口腔衛生状態不良、口腔乾燥、咬合力低下、舌口唇運動機能低下、低舌圧、咀嚼機能低下、嚥下機能低下)のうち、3項目以上該当する場合に口腔機能低下症と診断されます。
(2)口腔機能の精密検査
口腔機能低下症を診断するためには、7つの症状について精密検査を行います。
- 口腔衛生状態不良の評価
口腔衛生状態不良は、評価指標であるTongue Coating Index(TCI)を用いて、舌苔の付着程度により視診で評価します。 舌表面を9つの区域に分割し,各区域に対して舌苔の付着程度を3段階(スコア 0,1または 2)で評価し、合計スコアを算出します。TCI合計スコアが9点以上ならば口腔衛生状態不良と判定します。
- 口腔乾燥の評価
口腔乾燥は口腔粘膜湿潤度または唾液量で評価します。
-1口腔粘膜湿潤度
口腔水分計(ムーカス™)を使用して、舌の先端部から約10 mm後方の舌背中央部における口腔粘膜湿潤度を計測します。測定値27.0未満で口腔乾燥ありと判定します。
-2唾液量
唾液量の計測は,サクソンテストで行います。医療ガーゼを舌下部に置き、唾液がガーゼに浸み込むことによりガーゼの重量は増加しますが、2分間で重量増加が2g以下の場合を口腔乾燥ありと評価します。
- 咬合力低下の評価
咬合力は咬合圧検査または残存歯数により評価し、咬合圧検査を優先します。
-1咬合圧検査
専用の感圧フィルム(デンタルプレスケール™)を用いて、咬頭嵌合位(上下の歯が最も安定して噛み合う位置)にて3秒間全力で噛みしめた時の歯列全体の咬合力を計測し、咬合力が200N 未満を咬合力低下とします。なお、義歯装着者は義歯を装着した状態で計測します。
-2残存歯数
残存歯の本数を数えます。残根と動揺度3の歯を除いて残存歯数が20本未満の場合を咬合力低下とします。
- 舌口唇運動機能低下の評価
舌と口唇の巧緻性および運動速度を評価する方法であるオーラルディアドコキネシスで評価します。/pa/、/ta/、/ka/それぞれの音節を10秒間できるだけ早く発音させ、発音回数を数え、1秒当たりの発音回数が6回未満で運動機能低下と評価します。専用の測定機器(健口くん™)も市販されています。
- 低舌圧の評価
低舌圧は舌圧測定により評価します。舌圧測定器(JMS舌圧測定器™)のプローブを舌で硬口蓋に数秒間全力を用いて押し付け、最大舌圧を計測します。最大舌圧が30kPa未満で低舌圧と評価します。
- 咀嚼機能低下の評価
咀嚼機能低下の評価は、咀嚼能力検査(グルコース含有グミゼリー咀嚼時のグルコース溶出量を測定する検査)または咀嚼能率スコア法により評価します。
-1咀嚼能力検査
2 g のグミゼリー(グルコラム™)を 20 秒間自由咀嚼させた後、10 mLの水で含嗽させ、グミと水を濾過用メッシュ内に吐き出させ、メッシュを通過した溶液中に溶出されたグルコース濃度を咀嚼能力検査システム(グルコセンサ ーGS-Ⅱ™)によって測定します。グルコース濃度が100 mg/dL未満の場合を咀嚼機能低下と評価します。
-2咀嚼能率スコア法
咀嚼能率スコア法は、グミゼリー(咀嚼能率検査用グミゼリー,UHA 味覚糖™)を30回咀嚼後、吐き出させ、粉砕片を視覚資料と照合して評価する方法です。咀嚼後のグミゼリーの粉砕の程度が視覚資料のスコア 0,1,2 に相当する場合、咀嚼機能低下と評価します。
- 嚥下機能低下の検査
嚥下機能低下は嚥下スクリーニング検査(EAT-10)または自記式質問票(聖隷式嚥下質問紙)のいずれかの方法で評価します。
-1嚥下スクリーニング検査(EAT-10)
嚥下スクリーニング質問紙(The 10-item Eating Assessment Tool、EAT-10)を用いて評価します。合計点数が3点以上で嚥下機能低下と評価します。
-2自記式質問票(聖隷式嚥下質問紙)
自記式質問票「聖隷式嚥下質問紙」を用いて評価します。15項目のうちAの項目が3つ以上で嚥下機能低下と評価します。
野口 毅
髙橋 浩二
コラム一覧ページに戻る