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昭和大学歯科病院 口腔機能リハビリテーション科
前回のコラム「知れば知るほど怖い睡眠時無呼吸症候群」では、睡眠時無呼吸症候群が、交通事故だけでなく、日本人の死因の第2位と3位の病気である脳血管疾患や虚血性心疾患など、様々な病気を引き起こす怖い病気であることをお話しいたしました。本当に怖い病気ですね!でも、これは、睡眠時無呼吸症候群の治療をせず、放っておいた場合の話です。治療によってこれらの病気の発症の可能性を低く抑えることが出来るのです。
では、睡眠時無呼吸症候群はどのように治療するのでしょうか・・・
治療法は大きく2つに分けられます。
1つ目は、保存的療法といわれるものです。これには、
など。
2つ目は外科的療法です。これには、
写真1
があります。
これらの治療法のいずれも利点と欠点がありますし、人それぞれで適応、不適応がありますので、治療法の選択は医師と相談の上、慎重に行うべきです。
当科では、呼吸器内科や耳鼻咽喉科などの医療機関からの依頼を受け睡眠時無呼吸症候群患者さんの口腔内装置を作製しています(写真1)。
ここからは、当科で作成しているこの装置についてお話ししたいと思います。
まず、この装置がなぜ無呼吸を改善できるのでしょうか?
そもそも夜間の無呼吸や低呼吸は、筋肉の弛緩によって舌や軟口蓋が重力の方向に落ち込む事により息の通り道が狭くなるのが原因です(舌根沈下)。この装置を装着すると、下あごが前に出た状態を維持出来るため、舌の位置も前方に固定でき、気道の拡大につながるのです。
どのようにつくるのでしょうか?
ⅰ)患者さんの上あご、下あごの型をとります。
ⅱ)その型から模型を作り、患者さんのお口の中を再現します。それにあわせて上下のあごにあったプラスチック製のプレートを作ります(写真2)。
ⅲ)この上下別々のプレートを、下あごを少し前に出した状態(アィーンの状態)で、お口の中でくっつけます(写真3)。
写真2
写真3
ⅳ)上下のプレートをくっつけたらこれで完成というわけではありません。この装置であごや歯が痛くならないかを定期的にチェックします。装置の状態をチェックした後、原則として紹介元の医療機関で装置装着後の無呼吸・低呼吸指数(AHI)を測定してもらいます。このAHIの結果をみて、装置がうまく効いていたら本固定をし、完成となりますが、その後あごや歯に症状が現れる事もありますので、定期的なチェックを必要とします。
この装置は小さくて手軽で違和感も少ないので患者様には好まれる治療法の1つです。実際、当科にはn-CPAPでの治療を行っていたけれど、違和感などの理由で継続出来なかった患者さんや、過去に手術を行ったけれども効果が見られなかった患者さんが口腔内装置を作りにいらっしゃいます。これだけコンパクトで、効果もみられて、旅行や出張にも持って行けるというのは便利ですよね!
しかし、この優秀な装置にも欠点があります。それは…歯の数が少ない人には装着が難しい事、下顎を前に出して固定するので、顎の関節や歯に負担がかかる事などです。なので、この装置を装着した後も1ヶ月~2か月に1度は通院して頂きあごの関節や歯の状態を経過観察していく必要があるのです。また、この装置は重度の睡眠時無呼吸症候群の人には効果は薄いと言われていますが、当科ではこの装置を装着する事で患者さんのAHIがおよそ1/3以下に改善する事が分かっています。
現在、睡眠時無呼吸症候群の診断を受け、治療中であるけれども継続が難しいという方は、主治医にご相談の上、ぜひ当科にいらしてください!!
肥満は睡眠呼吸障害の増悪因子です。しかし、睡眠呼吸障害で良質な睡眠が得られないから太る!睡眠不足は食欲が増すという報告があるのです。睡眠障害と肥満は負の連鎖を起こす可能性が指摘されています。ですから、痩せている人は太らないように、もし、今、太めであれば、少し体重を落とすように心掛けましょう。体重の目安としてはBMI(現体重(kg)/身長(m)2)が25以上にならないように気をつけましょう。
睡眠障害で悩んでいる皆さん、日中の眠気で悩んでいる皆さんが快適な睡眠を得られるためのお手伝いが歯科医師の立場から少しでも出来たらと思います。
山川 道代