menuメニュー
昭和大学歯科病院 口腔機能リハビリテーション科
当科の記事が読売新聞に載りました。YOMIURI ONLINEから転載してご紹介致します。
舌がんの手術で舌を切除した女性。
下の歯の内側に見える透明の
プレートで舌の働きを補う。
東京都港区の女性(69)は2005年12月、都内の病院で舌がんの手術を受けた。舌のほとんどを切除し、舌の根元だけが残る。舌がないと、食べ物を口の中でまとめられず、うまくかみ砕けない。口の奥に食べ物 を押し込み、のみ込むこともできない。このため、女性は退院時には、腹部に穴を開けて、チューブで胃に栄養剤を送る「胃ろう」が設けられた。その後、昭和大歯科病院(同大田区)の口腔リハビリテーション科に通った。当初、口では一切食べられなかった。おなかの胃ろうの弁を見られるのが嫌で温泉にも行けない。弁の定期交換も痛い。「胃ろうを外すこと」が目標になった。
同科教授の高橋浩二さんらは、上あごと下あごの内壁を厚くするプラスチック製のプレートを作った。これを歯にかけて装着すると、短い舌でも上あごに触れやすく、食べ物に圧力をかけやすい。女性は、この装置を使って流動食を飲み込む訓練を始めた。食べ物が誤って気管に入り、誤嚥性肺炎になったこともあるが、次第に流動食なら口で十分食べられるようになり、09年10月、3年半ぶりに胃ろうを外せた。
(ぜつせっしょくほじょしょう)
「本当にうれしかった。今は東京近辺のあちこちの温泉を楽しんでいます」
言葉の発音に障害は残るが、言語聴覚士の指導や孫とのおしゃべりのおかげで、今では電話に出られるまでになった。
上あごにはめるプレートは昨春、口腔がんなどの患者の「舌接触(ぜつせっしょく)補助床(ほじょしょう)」として保険適用された。しかし、この治療を行う歯科医はごくわずかで、装置の存在もよく知られていない。
東京都国立市の男性(70)も昨年末、都内の大学病院で舌の左側3分の2を切除した。手術後は軟らかい物を食べていたが、今年3月、誤嚥性肺炎になった。栄養が十分とれず、65キロだった体重が50キロに落ちたため、鼻から胃に栄養剤を送るチューブを入れられた。
「味がなくて、食べた気がしない。精神的に追いつめられた」と振り返る。
そんな時、本紙で舌接触補助床を知った。日大歯学部病院(東京都千代田区)摂食機能療法科長の植田耕一郎さんを受診し、現在、補助床の調整中だ。男性は「こんな方法があるとは、手術した病院では聞かなかった」と話す。ただし植田さんは「装置を作っても必ず食べられるようになるとは限らない。手術後、患者の口の機能は変化するため、私たちもそれに合わせて試行錯誤しています」と話している。
2011年8月23日 読売新聞
(ぜつせっしょくほじょしょう)
舌接触補助床は、上あごに装着して厚みをもたせ、短くなった舌先が上あごに接触しやすくする装置です。舌が上あごに着くことで、発音の改善も期待できます。
記事中の女性のように、舌を大きく切ってしまった場合は、下あごにも舌の代わりのプレートを入れることで、食べ物をのどの方に送りやすくなります。
脳卒中などによる舌の運動障害がある場合にも使われます。使用を続けることで、舌の動きが良くなることもあるようです。
写真(高橋さん提供)は、舌接触補助床を入れた様子です。上あごの壁が厚くなっているのがよく分かります。