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昭和大学歯科病院 口腔機能リハビリテーション科
口腔機能障害を解説するためにまず口腔機能について述べます。口腔機能としてはまず思いつくのが咀嚼機能、哺乳・嚥下機能、言語機能です。これらは言うまでもなく重要な機能で、哺乳・嚥下機能については生命維持の根幹となる機能です。しかし口腔機能としてこれらは一部に過ぎません。
出産を終えた母親は初めて見るわが子を抱きしめ、誰もが新生児に口づけをするでしょう。この口づけをはじめとし口は非言語のコミュニケーションツールとしての機能を有します。世界中で流行したスマイルバッジは笑顔の“口元”が特徴で、その笑顔の口元に魅了されることはモナリザや国宝の仏像を例に出すまでもなく古今東西の老若男女の普遍的な心理でしょう。
人を静かにさせる合図―すなわち「シ」という口の構えと人差し指一本を立てて口の前に添えるポーズは海外の映画などでも見られるポーズで、異文化圏でも通用するコミュニケーションツールと言えます。口をへの字にする、頬を膨らませる、いわゆる「あかんべ」で舌を出す、舌打ちなどは日本では不快や怒りを表す合図として万人に共通します。一方、舌打ちもやり方を変えれば、乳児をあやすためのツールとして用いられます。また口笛は合図だけでなく楽曲でも使われることがあります。このように口腔はコミュニケーションツールとして重要な機能を営みます。
さらに口腔は生命維持に欠かせない呼吸機能を営み、発熱時、運動時など代謝亢進時には口呼吸は欠かせません。一方、あくびは呼吸機能の補助機能であるとともに「飽き」を表すコミュニケーションツールとしても用いられることがあります。味覚も口腔の重要な機能で、食の喜びには欠かせない機能であるだけではなく腐ったものなどを瞬時に感知する生命維持に欠かせない機能でもあります。また大量発汗時には塩味を欲し、疲労時には甘みや酸味を欲するのも味覚がホメオスタシス(恒常性)の維持のために欠かせない機能であることを示します。
口腔の温痛覚も生命維持に欠かせない機能です。魚の骨や砂利片など食物の中の侵害物を感知するのは痛覚の働きで、飲食物の温度を感知し、火傷や凍傷を予防するのは温覚の働きです。また痛覚、温覚は口腔内の炎症など病的状態を感知する役割を担います。一方、寒い時の暖かい飲食物、暑い時の冷たい飲食物は幸福感をもたらし、温覚は味覚とともに食の喜びに密接にかかわります。また口腔の触覚、圧覚は硬さ、粘性、凝集性といったいわゆる食感に関わる食品の物性(テクスチャー)を感知し、歯ごたえ感、舌触り感などをもたらし、味覚、温覚とともに食の喜びには欠かせない機能と言えます。
口腔が乾く感覚いわゆる口渇感は生命維持に欠かせない体内の水分のホメオスタシスを維持するために欠かせない機能です。
以上が口腔機能のおおまかな説明で、これらの機能の一つあるいは複数が低下した状態が口腔機能障害です。
口腔機能についてお困りの方は、是非一度当科にご相談ください。
高橋 浩二