menuメニュー
昭和大学歯科病院 口腔機能リハビリテーション科
日時:2012年12月4日 18:30~19:30
場所:昭和大学1号館7階講義室
講師:大石憲祐先生
(University of Southern California, Keck Medical Center of USC, USA)
講師の大石憲祐先生は、米国南カリフォルニア大学ケックメディカルセンターで言語療法士として摂食・嚥下障害患者のリハビリテーション医療で活躍されております。米国と日本では、摂食・嚥下障害の診断・治療における各職種の関わり方や、保険制度などが大きく異なります。今回は、「米国における嚥下障害治療の現状と胃瘻を取り巻く環境」と題して、米国の医療制度下における摂食・嚥下リハビリテーションの現状や課題について豊富な内容でご講演いただきました。
今回の講演には、歯学部、医学部を問わず本学の教職員や臨床研修医が参加し、学外からの参加もありました。また参加者の職種も、歯科医師、医師、言語聴覚士、歯科衛生士、管理栄養士など様々な職種に及び、多職種連携、チーム医療を掲げる本大学ならではの講演会となりました。講演終了後にも日米の医療制度や摂食・嚥下治療の違いなどについて、活発なディスカッションが行われました。
日本と米国では医療保険制度が大きく異なる。国民皆保険制度を確立した日本に対して、米国では健康保険の加入義務はなく、また公的な健康保険または民間の保険会社が提供する健康保険への加入を個人の意思で決定し契約を結ぶ。公的な保険としては、65歳以上の高齢者や障害者が対象となるメディケア(Medicare)や低所得者が対象となるメディケイド(Medicaid)などがあるが、公的な保険の対象とならない場合は、勤務先の会社の提携保険会社を利用したり、個人で民間の保険会社と契約を結ぶのが一般的であり、無保険未加入者も多く存在する。また、加入している保険会社やその保険プランによって、医療費の負担額や受給可能な医療サービスも異なるのが特徴である。
米国ではこのような保険・医療制度の下で医療が展開されているため、効率的で質の高い医療を国民に平等に提供する環境が整っていないのが現状である。また、摂食・嚥下障害に対する診断と治療についても、患者の保険加入の有無や保険の種類によって摂食・嚥下治療のサービスが異なるため、多くの問題が生じている。演者の所属する南カリフォルニア大学では、病院を民営と公立に分けることで様々な患者に対応しているという。このような状況を改善させるために、国民皆保険を義務付け、平等で一定した医療行為を国民に提供することを目的としたオバマケアの実施が計画されてきたが、今回の大統領選の勝利を踏まえ、オバマ政権下で2014年までに国民皆保険制度の確立と医療制度の改革を目指すという。
胃瘻は、食物や医薬品などの経口摂取が困難または不可能な患者に対し、人為的に皮膚と胃に瘻孔を作成してチューブを留置し、食物や水分、医薬品を流入させるための処置である。1980年代に米国において上部消化管内視鏡を用いて内視鏡的胃瘻増設術(PEG)が開発され、世界的に普及した。胃瘻の適応については多くの議論があり、近年、胃瘻増設に同意できない認知症患者へのPEG適応、放射線治療中の口腔がん患者に対するPEG、介護負担を減らすためのPEGなどを見直す報告も発表されている。米国においては、適応を十分に見直すことで胃瘻増設を避ける傾向が高まっており、胃瘻が減少してきているのが現状である。今後は、摂食・嚥下治療の実際の効果や胃瘻の適応性を評価する研究を行っていくこと、また高齢化社会に向けて、摂食・嚥下治療に関わるマンパワーの増加や、一般社会への摂食・嚥下障害に関する知識の啓発が必要不可欠であると考える。
口腔リハビリテーション科 言語聴覚士 武井良子記