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昭和大学歯科病院 口腔機能リハビリテーション科
平成20年度昭和大学公開講座「いびきにご注意!!―快適な睡眠を得るために:睡眠時無呼吸症候群の診断から対処法まで―」(講師:昭和大学歯学部口腔リハビリテーション科 高橋浩二)2008年11月8日に開催されました。長時間の公開講座にもかかわらず、講師の説明を熱心に聞く姿が多く見られました。
平成20年度 昭和大学公開講座(2008.11.8)
昭和大学歯学部口腔リハビリテーション科 高橋浩二
大切な睡眠
人はなぜ睡眠をとるのでしょう。
まだわかっていない点も少なくありませんが、傷ついた細胞の修復、消耗したエネルギーの回復、記憶の強化、免疫機能の調節、体温調節などが睡眠中に行われていると考えられています。これらのことからも健康な生活を送るためにはしっかりと睡眠をとることがいかに大切であるかがわかります。
身近な睡眠障害
ところが、近年の調査では日本人の睡眠時間は1960年代と比べると平均50分以上短くなり、5人に1人が睡眠の問題を抱えていることがわかりました。睡眠の問題を起こす疾患は数多くあり、睡眠障害国際分類によれば88種類もの睡眠障害があるといいます。88種類の睡眠障害のうち最近話題になっているのが、閉塞性睡眠時無呼吸症候群です。
イビキと眠気にご注意!!閉塞性睡眠時無呼吸症候群とは
閉塞性睡眠時無呼吸症候群(正しくは閉塞性睡眠時無呼吸症候群といいます)は症状として日中に過度の眠気があり、睡眠中に気道が塞がるため、睡眠1時間あたりに10秒以上の呼吸停止あるいは低呼吸(換気量が減り、血液中の酸素が少なくなった状態)が5回以上ある場合をいいます。また日中の眠気のほか特徴的な症状として大きなイビキがあります。この病気の罹患率は高く、日本人では男性の2-3%が閉塞性睡眠時無呼吸症候群であると考えられています。特徴である日中の過度な眠気のため、居眠りによる様々な事故やミスが起こり、例えば交通事故の発生率は健康な人と比べ閉塞性睡眠時無呼吸症候群では約7倍も高いことが米国の調査で証明されています。また、1979年米国スリーマイル島原発事故、1986 年スペースシャトルチャレンジャー号爆発事故なども睡眠障害を持つ関係者の居眠りによるミスが関連していると考えられており、社会経済にも大きな損失をもたらすと考えられています。
平成の2・26事件
日本ではJR西日本の山陽新幹線運転士の居眠り事故によって閉塞性睡眠時無呼吸症候群が広く知られるようになりました。この事故は運転士が眠ったまま新幹線が時速270kmで8分間走行し、岡山駅100m手前でATC(自動列車制御装置)の作動により停車したというものでした。岡山駅で車掌が揺り起こすまで運転士は熟睡しており、後にこの運転士は閉塞性睡眠時無呼吸症候群であることが分かったのです。事故が起きたのは2003年2月26日で、居眠り中に列車が走行した距離は26kmと26という数字がいくつも登場することから、睡眠医療の関係者の間では、この事件は『平成の2・26事件』として知られています。
放っておくと寿命が短くなる!?閉塞性睡眠時無呼吸症候群
これらの事故に加え、閉塞性睡眠時無呼吸症候群は高血圧症、虚血性心疾患、脳血管障害、糖尿病、高脂血症などのいわゆる生活習慣病の増悪因子であり、閉塞性睡眠時無呼吸症候群を放っておくと寿命が短くなるという海外の報告は複数あります。
閉塞性睡眠時無呼吸症候群の診断と治療法
閉塞性睡眠時無呼吸症候群の診断は携帯型の呼吸記録装置やポリソムノグラフィーという特殊な検査装置を用いて行われ、当病院では総合内科が担当しています。
治療としては呼吸装置による治療や口腔内装置による治療が行われています。口腔内装置は夜間に装着する特殊なマウスピースで、気道を拡大する効果があります(写真1)。
閉塞性睡眠時無呼吸症候群の重症度は睡眠1時間あたりの無呼吸と低呼吸の回数で評価します。口腔リハビリテーション科の患者様の調査では装置を装着することにより全員が無呼吸と低呼吸の回数が顕著に減少し、装置装着前には無呼吸・低呼吸の回数が44回であったのが装着により2回まで改善した患者様もいらっしゃいました(グラフ1)。
大きなイビキや日中の眠気が気になる方は当病院総合内科あるいは口腔リハビリテーション科まで是非お越し下さい。
写真1 口腔内装置装着前(左)と装着後(右)の気道(矢印)(口腔リハビリテーショ科データ)
グラフ1 口腔内装置による無呼吸と低呼吸の改善(口腔リハビリテーショ科データ)