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昭和大学歯科病院 口腔機能リハビリテーション科
平成19年5月14日昭和大学歯科病院第1臨床講堂にて、昭和大学摂食嚥下研究会公認臨時セミナー”Swallowing Therapy-頭頸部癌患者の術後嚥下障害の診断と治療について-”の演題でDr. Michael E. Groherの講演会が開催されました.Dr. Groherは日本摂食嚥下リハビリテーション学会の招待講演など何度も来日されている著明な先生で,その著書も何冊も翻訳されております.当日は院内,大学内のみならず,他大学や他施設などからのご参加も頂きました.
頭頸部癌に対する放射線治療後に摂食嚥下障害が認められることがある.放射線治療中に認められる急性症状の粘膜炎,口腔乾燥,カンジタ症,浮腫,亜急性および慢性症状として認められる筋の線維化や神経障害は摂食嚥下に影響を及す.さらに放射線照射後に見られるこれら急性及び慢性の変化により患者は栄養障害に陥ることもある.また,嚥下に関わる筋肉の運動制限が意図的な廃用を起こす.
通常,摂食嚥下リハビリテーションは,これらの摂食嚥下障害の症状が現れてから始める.2007年にMannとCraryは,摂食嚥下障害の症状が出現する前に,摂食嚥下に関わる筋肉に対する訓練を行うと意図的な廃用に夜筋肉の線維化を避けることができるという仮説を立て以下の研究を行った.頭頸部腫瘍に対して放射線治療を行った患者58名を無作為に1.腫瘍チームによる通常の治療を受けた群,2.嚥下には関係ない訓練を行った群,3.嚥下に関わる積極的な訓練を行った群.の3グループに分けた.摂食嚥下に関わる訓練は,舌,顎,咽頭,喉頭の筋群に対するエクササイズで,1日2回,10回を1セットとしそれぞれのセット間2分休憩するというものである.訓練は6週間行った.訓練前と6か月後に筋肉量をT2強調MRI画像で,嚥下機能をMASA*とVFで評価した.その結果,嚥下機能,オトガイ舌筋,舌骨舌筋,顎舌骨筋の筋肉量および嚥下機能についてそれぞれの群の間に統計学的有意差が認められた.
この予備実験によって,頭頸部腫瘍に対する放射線治療後に摂食嚥下障害の症状が現れる前に積極的な訓練を行うことにより,筋肉の廃用性萎縮の予防と摂食嚥下機能の維持につながることが示唆された.更なる研究では,訓練回数を変えた効果と,6か月以上継続する必要性について検討している.
*MASA(The Mann Assessment of Swallowing Ability)
Dr. Giselle Mann によるベッドサイドにおける摂食嚥下機能評価